KOSMOSフォーラム
 
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フォーラムINDEX(第9回〜第10回)
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第10回内容
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第3回KOSMOSフォーラム 2004
 
フォーラム議事録
 
川勝

 これからパネルディスカッションをしたいと存じます。

 河合先生の素晴らしいお話の余韻がまだ会場には残っています。先生は楽しいお話のなかに重要なメッセージを残してくださいました。人間とは何か、近代が生み出した科学とはどういうものか、また、現代の文明が持っている問題はどこにあるのか、などについてのメッセージです。それを踏まえて議論をしてまいります。

 今日は、自然科学者の松井孝典先生、文明学者の安田喜憲先生、そして、人間学者といいますか、人間の心の問題に造詣の深い中沢新一先生にお越しいただいています。私を含めて全員が団塊の世代で、昭和20年代の前半期に生を受けた者です。

 さて、時間的順序としては、人間が生まれ、文明が生まれ、そして自然科学が生まれました。しかし、自然科学者の松井孝典先生は、タイムスケールでは、150億年くらいのものを視野に取り込んだ研究をされています。文明学者の安田先生は、植物と人類の関係について深い洞察をお持ちですが、数万年のタイムスケールです。そして中沢先生は、人間の神話の構造、心の問題ついての専門家です。タイムスケールとして一番長いのは松井先生なので、松井先生からお話いただいて、安田先生、中沢先生という順序で、一人10分間ずつぐらいお話いただき、一巡したところで議論に入っていくという段取りにしたいと思います。松井先生から、ご発言をお願いいたします。
   
松井

自然科学はルールのもとに

 今、河合先生が見事な話術で、科学というものがどんなものかというお話をされました。私は自然科学という分野の研究を行なっているのですが、我々の世界はとても単純です。いい悪いがはっきりしているんです。というか、それを判断するルールが決まっているんです。その決められたルールのもとに、ある決められた土俵の上で議論をしているんですね。先ほどの河合先生の話では、そのルールのひとつが人間と自然をはっきり分けているんだということです。議論をどこから始めるかが重要なのですが、自然科学では、人間という認識する主体と自然という認識される客体とをはっきり分けてそこからスタートしているんです。私自身は、「人間と自然をそのように分けないでトータルでみる」ということは興味があるのですが、大学で研究としてやっていることはどうしても“分けたところ”からスタートする。ルールがはっきりしていなかったり、最初から土俵があいまいだったりすると、そこから先に進めませんからどうしようもないんです。ということで、河合先生の立場からすると、とんでもない教育をやっているのかもしれませんが、それしか方法がないということです。それが実は、自然科学とほかの科学との違いかもしれません。その問題点は私自身もよく分かっているのですが、ただ、私の場合は気が短いのでそのように思考のスタート地点を決めないと、いつまでもどうどうめぐりを繰り返すことになるのでそういうことができない。そういう意味では、自然科学に向いているかなと思います。

 その気の短い私が、150億年という時間が一番長い話をするというのは、非常に矛盾しているようにも思いますが、時空スケールが大きくなればなるほど、実は、逆に単純化できるんです。私は非常に単純だし、気が短いので、時空スケールとしては大きいテーマをやることができるということです。

 私が頭の中で個人として、どういうことをやっているか?単純なことです。脳の中で、脳の内と外を分け、外の世界を脳の内部に投影するという作業を行なっているということです。外の世界を投影した内部モデルをつくっている。自然科学というのは、その投影の際のルールのようなものです。誰がやっても外部世界が同じように脳の中に投影されるように。なぜそんなことをやっているのか、それはよく分かりません。ただ私の場合には、その外部世界が150億年の時空スケールまで広がっているというだけのことです。そういう世界を脳の中に投影して、あるモデルができるわけですが、それができると別の脳の中でドーパミンがドッと出るようです。ものすごく快感を覚えるわけです。まだ誰も描いていなかったようなモデルが頭の中に浮かぶと、ドーパミンが放出される。これは何ともいえない快感なんです。研究というと何かすごそうですけど、個人的には、ただそうした快感を得るためにやっているようなものですね。

 今日の河合先生の話は一つ一つの事例を挙げて、その話のなかで普遍性がどうかという話でした。私の追求しているのは、最初からもう普遍性なんですが、その普遍性を個別の関係で――例えば宇宙なら、アンドロメダ銀河と私との関係とか、銀河系と私との関係とか、次に「実は普遍性としてこういうものがありますよ」ということを述べると、たぶん皆さんには非常によくわかる話になろうかと思いますが、トータルの時間が10分で、河合先生流に一個一個具体例を挙げてしゃべるのは非常に難しいので、最初から普遍性について――具体的には私の脳の中に150億光年という時空スケールがどういうふうに投影されているかという、その内部モデルの話だけをします。

150億年の時空スケールで現代をとらえる

 150億年の時空スケールで現代をとらえたらどういうふうに見えるのか。現在、我々はある生き方をしています。どういう生き方をしているのかというと、宇宙から見て見えるような生き方をしているということです。それが、現代という時代をそのような時空スケールからみたときの一番大きな特徴だろうと思います。“見える”というのは、例えば、宇宙から夜半球の地球を見たら煌々(こうこう)と光り輝く海が見える。あるいは、近くの星に知的生命体がいたとして、アンテナを太陽系のほうへ向けていると、地球という惑星から飛んでくる電波が観測される。その電波が何か意味のある信号であるという意味でも“見える”ということです。これが“現代”という時代の非常に大きな特徴だろうと思います。

 それを内部(=頭の中)モデルとして描くと、地球システムということになります。システムというのは機械を想像すればいいでしょう。いろいろな部品が集まって地球という星ができている。それぞれの部品はみんな違う。例えば、大気だとか、海、生物圏、あるいは、コア(core)だとか、マントル(mantle)、地殻だとか、それらが組み合わさって地球という一つの機械ができている。その中に、今我々は“人間圏”という部品をつくって生きているんだということになります。この人間圏という部品がいつできたかというと、1万年ぐらい前になります。我々が農耕牧畜という生き方を始めたときに、人間圏という構成要素ができた。それ以前は、生物圏という部品の中に“ヒト”という生物種が存在していた、と考えることができる。これが現代という時代の私の分析です。

 では、我々が現代をそういうふうにとらえたときに、未来はどう考えられるか?我々は、過去を時間的に延長してしか、未来を考えることができません。過去を知らないと未来は考えられないということです。150億年の時空スケールでの過去を、一言で言いますと、分化してきたということになります。「宇宙は分化し、地球は分化し、生命は分化し、人類は分化して現在に至っている」ということです。宇宙の始まりの瞬間は非常に均質な状態です。均質な状態というのは混とんと無秩序です。そんな状態から出発して、現在は、秩序と構造ができている。その秩序と構造がより多様になってきた、というのが宇宙も地球も生命も普遍化したと考えたときの時間的な変化の特徴です。それを“分化”と呼びます。では、宇宙が分化し、地球が分化し、生命が分化するのはなぜか?物理的には非常に単純なことです。宇宙が冷え、地球が冷え、地球環境が冷えたから分化が起こったということです。こういう過去を知ったうえで、これから我々がどういう人間圏を構築したいのかを考えていくのが、私流にいう「全てを統合して人間や、自然のことを考える」ということになります。

普遍なのか特殊なのか

 これは頭の中で普遍性を追究した結果出てきた結論ですが、皮肉なことに、過去10年ほど我々がそうやって普遍性を求めて宇宙を見ていった結果、最近分かってきたことは、この世界――地球、あるいは地球上に住む生物の世界――というのは、非常に特殊かもしれないということです。宇宙的スケールで見たときに、地球のような星が生命を生む星として一般的かというと、そうではないらしい。生命は地球以外、まだどこにも見つかっていないから同様です。そういう意味では、生物学はまだ「地球生物学」なんです。我々は、地球生物学が普遍的かもしれないということで一生懸命火星に生命を探り、それから、今年はタイタンという惑星に探査機が行きますけれども、タイタンという土星の衛星に生命を探ろうとしている。あるいは、銀河系の中で太陽系と似たような惑星系はないかと一生懸命探しているんです。それは実は、この世界の普遍性を求めているんですが、現在までにそういうものはまだ一つも見つかっていないのが事実です。それは何を意味をしているかというと、この世界は極めて特殊かもしれないということです。普遍性を追究し宇宙まで視野に入れて一生懸命やってきたのだけれども、その結果として、この世界の特殊性が提起されて、私自身も今思い悩んでいる所です。普遍性を追究していっていいものか、あるいは特殊性に戻ってくるべきか、ということを考えていて、そうなると先ほど河合先生がおっしゃったように、一個一個の個別の物語として、いろいろなことを考えていかなければいけないかなとも思っています。
   
川勝

 どうもありがとうございました。

 自然科学は普遍性を追究する、という前提でお話しされました。宇宙はシステムを持っており、システムは時間の流れの中で分かれてきた。それを“分化”とおっしゃった。分化の過程で、太陽系が生まれ、その中で生命圏が生まれ、生命圏の中に人間圏が1万年ほど前に分化してきた。自然界は異なるものに分化してきたという結論です。自然科学者は普遍性、すなわち、時空を超えて成り立つはずの法則を追究していくと、なんと、そこで見つけたのは、一回きりの歴史を歩んでいるという事実であった、ということです。松井先生は、自然科学者として、宇宙の歴史を研究しているのだ、ということだと思います。松井先生のご本の中に有名な文句がありまして『自然科学者というのは、宇宙空間にある古文書を読み解く仕事をしている』と。古文書というのは、惑星の誕生であったり、地球システムであったりするのですが、それを現時点から読み解いていくのが自然科学者の仕事だ、と。その過程で、生命系としての地球システムは、実はどこにでもあるようなものではなくて、特殊なものであるということに気づかれた。そういう意味では、河合先生のお話と通ずるところに立っている話だったと思います。

 それでは続いて、安田先生、よろしくお願いいたします。
 
 
 
 
 
 
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